前略、本日も二日酔いなり
とろんとしたまなざし、少しばかりボリュームが大きくなった声。
突然に涙を流す人やデフォルトの表情が笑顔になってしまう人、やたらとべたべたしてしまう人に誰かに何かを諭したくてしょうがない人。
そのうち、恋愛や仕事、政治に自慢話、トピックはそれぞれだが心に秘めた熱い思いを吐き出し始める。
そう、みな酔っ払っているのだ。
私はこの瞬間を見るのが好きだ。
何度も同じ話をする姿も、やけに大きい身振り手振りも、人に迷惑をかけてしまっても次の日にはけろっと忘れてしまうところも、全部好きだ。
カフェでラテを片手に、元彼がやれクズだっただの別れて清々しただのしゃべっていた友達も、飲みものが梅酒に変われば事情が変わるらしく、彼のことが今もどれだけ好きなのかを女の子の顔をしながら話しだす。
「言ってることがさっきまでとは違うじゃない」なんて反論はナンセンスすぎる。この世には素直になれないことが多いのだ。
普段は寡黙な父も、焼酎を片手に「お父さんはお母さんがすごい好きでな...」と涙を流していたことがある。小さい頃は怖すぎてろくに口もきけなかった父が、しかも50歳を過ぎた大の大人が、愛うんぬんで泣いてしまうのかとその時は思わず笑ってしまったが、わたしが抱く父のイメージを大きく変えてしまうくらい母には魅力があるのかと、次の日から同じ女として母を尊敬するようになった。
かくいう私もワインや日本酒片手に、言うつもりのなかった好きや、言わなくてもよかったとげのある言葉たちをたくさん吐き出してきた。
それによってうまくいった恋もあったし、終わってしまった恋もあった。終わってしまった友情もあったし、さらに深まった友情もあった。大人になってから学んだいろいろはお酒とともにあった気がする。
そして今日も、泣いたり笑ったりをしながら大人たちはお酒を片手に自分の秘めたる部分をちらりと見せる。
電車を乗り過ごし、スマホをなくし、見知らぬ場所で目を覚ます自分に飽き飽きしながらも、そんな自分を愛し、それを話のネタにお酒を飲むのだ。
すべての愛すべき酔っ払いにこの文章を捧げたい。ビバ・アルコール!