働きたい人生があってもいい
わたしは販売員。
店頭に立ち、お店に並ぶ商品の中からお客様のニーズにあったものをご提案し、「おお!これこれ!」だとか「え!すごい!こういうのもいいですね!」なんてことになれば万々歳な仕事をしている。
高校生のときにやっていたアルバイトも、大学生になって掛け持ちしたいくつものアルバイトも、大学を中退してまでもやりたいと思った仕事も、すべて接客業だった。
始めたきっかけ自体はすごく分かりやすいもので、〝アルバイトを始めるならとりあえずコンビニからやってみるか〟というものだったし、それ以降も〝おしゃれなカフェでも働いてみたい〟だとか〝雑貨が好きだから〟という分かりやすくて、自分の要望とお金を稼ぐという本来の意味のバランスを上手にとったものだった。
そんな分かりやすい理由で始めた仕事の持つ意味が変わってきたのは21歳くらいの頃。
その時わたしは花屋で働いていた。
〝花が好きだから〟とか〝色に囲まれて働きたい〟といった理由から選んだ仕事だった。
想像よりはるかに過酷な仕事で、歳上のお姉さんたちとの人間関係や知識と技術をつめこむのには苦労したけれど、それなりの楽しさとやりがいを見つけて充実した日々を送っていた。
そんなある日。
店頭に立つわたしに、1人の男性がキラキラした顔で話しかけてきた。
「クリスマスのディナーの時にテーブルに飾るアレンジメントをください!」
そう言っていた。
男性なのに珍しいな、彼女とおうちごはんかな?なんて思いながら、色はどうしますか?だとかどういった雰囲気がいいですか?などと聞いていると、その男性が「実は…」と話し始めた。
聞くと、以前その男性は好きな女の人に想いを伝えるために花束を買ったそう。
その花束のおかげもあってか無事に告白は成功したらしく、その愛する彼女との初めてのクリスマスを迎えるらしい。
そしてその花束をつくったのがわたしということだった。
「お姉さんのおかげなんです!彼女すっごい喜んでくれて!大事なクリスマスだからまたお姉さんにお願いしたいなって思って来ました!」
その時のわたしの気持ちは正直、きょとんだった。びっくりしていた。
自分の仕事が誰かの人生に大きく関わるなんてこと思ってもみなかったし、誰かの記憶の1ページに残るなんて思ってもみなかった。
わたしの手元から離れた花たちに想いを馳せるなんてことがなかったけれど、とても大事で素敵な仕事をしているんだと誇らしくなった。
色と香りと気持ちをぎゅっと束ねてわたしは花を売っていた。
あれから数年経って、いまは花以外のものを売っている。
もちろん根底にあるのは〝好きだから〟という思いだけれど、モノ以外も売っているつもりで働いている。
わたしがいいと思ったモノたちが、5年後も10年後も誰かの心にとまるものであれば嬉しいし、誰かの人生の一部に大事な意味をもってくれたらこんなに素晴らしいことはないと思っている。
「仕事はなんですか?」と聞かれたら、こう答えたい。
わたしは販売員。
モノと想いを売っている、と。