声に出したい好きがある
見上げるとまんまるのお月さまだった。
職場が変わって2週間。
やっと仕事や共に働く人たちとの関係や、日常のもろもろのリズムが掴めてきた。
めったに乗らなかった路線に乗るようになって、縁もゆかりもなかった駅が最寄り駅になった。
スーツを着たサラリーマンやお疲れ気味のOLさんに揉まれながら通勤していたわたしから卒業して、色合いこそ無難だけれどシルエットからセンスがだだ漏れしているような人たちや外人さんがわたしの通勤仲間になった。
すてきな並木道見たさに、少しばかり遠い駅の出口から歩いて職場へ向かうようにもなった。
これでお昼におしゃれなパスタでも食べれば完璧だけど、現実はコンビニの行列に並ぶ毎日だから、わたしもまだまだ染まりきれていないのかもしれない。
疲れきった帰り道、ふと好きという気持ちとか、下心とか、駆け引きとか、なんだかいろいろよく分からなくなった。
見上げた先にあった月みたいに、きっとわたしの好きという気持ちも、絶えず満ちたり欠けたりしているのだろう。
目線を落とすと、足元には散った桜の花びらが夜風に吹かれてくるくると踊ってた。
とても綺麗だったけど、砕け散ってもなお、可能性を信じて舞おうとしてるわたしの恋心みたいで、少しだけせつなかった。
春が終わる。
嘘からはじまる4月があるみたいに、嘘からはじまるほんとがつくれたらいいのにな。