見ないふりとやめること
去年の今頃、デパートで開催されるバレンタインフェアに行った。
甘ったるい匂いと、混み混みのフロアにうんざりする女の人たちの苛立ちを肌で存分に感じながら、わたしも好きな人に渡したいチョコレートを選んだ。
「きっと彼はあまり甘いものが好きじゃないから」とか、「量もたくさん食べれないだろうし、いいチョコレートが2つ3つの方がセンス良さそうだよな」とか、「ハート型はやりすぎだよなあ」とか、恋する女子っぽい思考をフル回転させていた。
だけど、バレンタイン直前わたしはその彼のために買ったチョコレートを全部自分で食べた。
詳しくは思い出せないけれど、たぶん彼が他の女の子と会ってたとか、飲み会でデレデレしてたとか、そんな理由だったと思う。
嫌になったのだ。好きでいるのが馬鹿らしくなった。
付き合ってないんだもの、しょうがない。
わたしには彼の行動や気持ちの動きひとつひとつになにも言う権利を持っていなかったんだもの。
それでも悲しかった。
彼のために選んだチョコレートを見ただけで、悲しい気持ちと、うまくいかない恋愛への腹立たしさがふつふつとわいてきて不快だった。
愛を食べてやった。
あいつにあげるための愛を口いっぱいに放り込んだ。
なにも美味しくなかったし、悲しい気持ちが増すだけだった気がする。
そんな思い出から1年経って、わたしはつい先日彼の連絡先を消した。
いろいろ吹っ切れたつもりでいたけれど、わたしはまだまだ好きが全開だった。
割り切った関係とか、わたしには無理だった。
合コンがどうだったとか聞いてほしくないし、教えてほしくもない。なんなら行かないでと言ってほしいし、行ってほしくもない。
誰に告白されたとか教えてほしくないし、わたしがする同じ話はやきもちをやいてほしいからだと気付いてほしい。
もうなんとも思ってない風を装って笑顔で一緒にいるのはつらくなってしまった。
好きだったなあ。
いまも全然好き。
今年のバレンタインはあげたい愛を買いに行く予定もないし、あげたかった愛を1人で食べる予定もない。
大人な関係に見ないふりをすることと、好きな気持ちを断ち切ること、一体どっちが苦しいのか分からなくなってしまった夜です。